養老孟司『遺言。』
養老孟司『遺言。』(2017)
久し振りに書いた本だと言う。ここしばらくは著者が喋ることを編集側が本にする語り下ろし方式だった。それゆえ平易な言葉ではあったが、認識の転換を図られる中身はすぐ受け入れられないことも。僕はとても理解しているとは言い切れない。それでもしつこく読み続けてしまうのは、どこかで著者が言った通り「頭の中が交通整理」されるからだろう。どうやらそこに快楽めいたものを覚えているらしく、学生時に知人から教えてもらって以来の養老中毒である。
今作は特に本質のみを簡潔にまとめた内容で、全く初めての方以外にとっては何度か見かけた主題だろう。さらに磨き込まれた説明は洗練の極みとでも呼ぶべきか。そして最先端の知見にも触れられている。
差異を感知する感覚と、同一性を志向する意識との乖離。それがヒトの社会を形作り、様々な問題をも同時に引き起こしている。
具体例を挙げながら、根っこから一緒に考えていける。
何かしら生きづらさを抱えている人(そうでない人などいないはずだが)に、なぜそうなっているのかが分かるだけでもだいぶ楽になるのではという観点からも推薦したい。
僕自身のことだが10年ほど前に全てが行き詰まってしまったとき『バカの壁』から改めて手に取り、かなり救われた記憶がある。
そういう意味でも実用的な、実践的な書物だと言えるのではないか。だましだまし生きるための道具のような思考 法を教えてくれる。
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